この記事では、昇圧スイッチングレギュレータの基本的な仕組みについて解説します。
下記にあてはまる方は、ぜひ最後までご覧ください。
- これから昇圧スイッチングレギュレータの設計をはじめる人
- 昇圧スイッチングレギュレータの仕組みに興味がある人
昇圧スイッチングレギュレータとは?
昇圧スイッチングレギュレータ(step-up switching regulator / boost switching regulator)は、電力変換回路の一種で、入力電圧よりも高い出力電圧を生成することができます。
ちなみに、スイッチングレギュレータは、スイッチング電源(SMPS: switched-mode power supply)やチョッパ(chopper)と呼ばれることもあります。また、直流電圧を直流電圧に変換することから、DC-DCコンバータ(DC-DC converter)と呼ばれることもあります。
昇圧スイッチングレギュレータの回路図は?
図1は、昇圧スイッチングレギュレータの回路図の一例です。図1には、コイルL1、コンデンサC1、トランジスタM1、ダイオードD1、コントローラ(Controller)を示しています。
昇圧スイッチングレギュレータは、トランジスタM1のオンとオフを交互に繰り返し、入力電圧Viよりも高い出力電圧Voを生成します。
このとき、コントローラによってトランジスタM1がオンである期間とオフである期間を制御することで、入力電圧Viや出力電流Ioが変動しても、一定の出力電圧Voを維持します。
昇圧スイッチングレギュレータの出力電圧は?
トランジスタM1がオンである時間(オン期間)をton、オフである時間(オフ期間)をtoffとすると、出力電圧Voは、下記の式(1)のようになります。
\[\small
V_{o}=\dfrac{t_{on}+t_{off}}{t_{off}}\times V_{i}
\tag{1}\]
ここで、オンとオフの繰り返し周期(ton+toff)に対するオン期間(ton)の割合をデューティ(Duty)比といいます。すなわち、Duty比は、下記の式(2)のように表されます。
\[\small
{\rm Duty比}=\dfrac{t_{on}}{t_{on}+t_{off}}
\tag{2}\]
よって、出力電圧Voを、下記の式(3)のように表すこともできます。
\[\small
V_{o}=\dfrac{1}{1-{\rm Duty比}}\times V_{i}
\tag{3}\]
つまり、昇圧スイッチングレギュレータの出力電圧Voは、入力電圧ViとDuty比によって決まります。
例えば、入力電圧Viを5[V]とすると、Duty比が60%の場合、出力電圧Voが12.5[V]になり、Duty比が80%の場合、出力電圧Voが25[V]になります。
このように、Duty比によって出力電圧Voを制御することを、パルス幅変調(PWM: pulse width modulation)制御といいます。
昇圧スイッチングレギュレータの出力電圧の導き方は?
次に、なぜ昇圧スイッチングレギュレータの出力電圧Voが上記の式(1)になるのかを説明します。
トランジスタM1がオンとオフのそれぞれの期間にコイルL1に流れる電流を求め、定常状態ではそれぞれの電流の変化分が等しくなるということから、出力電圧Voを求めることができます。
図2は、昇圧スイッチングレギュレータのコイルL1に流れる電流iLの変化を示すグラフです。トランジスタM1がオンである期間(on)を赤線、オフである期間(off)を青線で示しています。
オン期間では電流iLが徐々に増加し、オフ期間では電流iLが徐々に減少します。
以下に説明するように、オン期間とオフ期間のそれぞれにおいて、コイルL1に流れる電流iLを求めます。
オン期間に流れる電流は?
図3は、オン期間の等価回路です。図3には、オン期間に流れる電流の様子も示しています。
オン期間では、ダイオードD1がオフになり、入力からコイルL1とトランジスタM1を介してGNDに電流が流れます。
具体的には、コイルL1の両端に印加される電圧vLが”入力電圧Vi”となり、コイルL1に流れる電流iLが自己誘導作用によって徐々に増加します。
このとき、コイルL1に流れる電流が磁気エネルギーとして蓄積されます。
ここで、コイルL1のインダクタンスをLとし、オン期間における電流iLの変化分をΔiLonとすると、下記の式(4)が成り立ちます。
\[\small
V_{i}=L\times\dfrac{\Delta i_{Lon}}{t_{on}}
\]
\[\small
\therefore \Delta i_{Lon}=\dfrac{V_{i}}{L}\times t_{on}
\tag{4}\]
オフ期間に流れる電流は?
図4は、オフ期間の等価回路です。図4には、オフ期間に流れる電流の様子も示しています。
オフ期間では、ダイオードD1がオンになり、入力からコイルL1とダイオードD1を介して出力に電流が流れます。
具体的には、コイルL1の両端に印加される電圧vLが”入力電圧Vi-出力電圧Vo”となり、コイルL1に流れる電流iLが自己誘導作用によって徐々に減少します。
このとき、コイルL1に蓄積された磁気エネルギーが放出されます。
ここで、オフ期間における電流iLの変化分をΔiLoffとすると、下記の式(5)が成り立ちます。
\[\small
V_{i}-V_{o}=L\times\dfrac{\Delta i_{Loff}}{t_{off}}
\]
\[\small
\therefore \Delta i_{Loff}=\dfrac{V_{i}-V_{o}}{L}\times t_{off}
\tag{5}\]
出力電圧は?
定常状態ではオン期間の電流の変化分とオフ期間の電流の変化分が等しくなるため、足し合わせるとゼロになります。よって、上記の式(4)、式(5)より、式(1)を導くことができます。
\[\small
\Delta i_{Lon}+\Delta i_{Loff}=0
\]
\[\small
\Rightarrow \dfrac{V_{i}}{L}\times t_{on}+\dfrac{V_{i}-V_{o}}{L}\times t_{off}=0
\]
\[\small
\therefore V_{o}=\dfrac{t_{on}+t_{off}}{t_{off}}\times V_{i}
\tag{1}\]
このように、昇圧スイッチングレギュレータの入力電圧と出力電圧の関係を導くことができました。
なお、実際の昇圧スイッチングレギュレータでは、トランジスタM1のオン抵抗やスイッチング損失、ダイオードD1の順方向電圧、コイルL1の直流抵抗や線間容量、コンデンサC1の等価直列抵抗や等価直列インダクタンスなど、様々な要因が入力電圧と出力電圧の関係に影響します。
まとめ
この記事では、昇圧スイッチングレギュレータの基本的な仕組みについて解説しました。
- 昇圧スイッチングレギュレータは、入力電圧よりも高い出力電圧を生成することができます。
- 出力電圧は、入力電圧とDuty比によって決まります。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。